令和元年度奈良女子大学卒業式並びに学位記授与式 学長式辞

    

 文学部 153名、理学部159名、生活環境学部190名、合計502名の学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今年は新型コロナウイルスの影響で、卒業式を簡素な形で行うことにしました。奈良女子大学の教職員一同は、各地で本日のご卒業をお喜びの保護者の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
 ご卒業は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって二つお願いがあります。 まず、ご家族あるいは皆さんを支えてくれた方に「ありがとうございました、おかげで無事卒業することができました。」と感謝の言葉を伝えてください。この言葉は、経済的支援だけでなく、皆さんが無事でいて欲しいとの祈りの気持ちに対しての返礼になります。是非口に出して伝えてください。25年前の阪神・淡路大震災、9年前の東日本大震災を思い起こすまでもなく、今日の新型コロナウイルス禍を見れば、無事であること、「つつがなし」は実は大変な事なのです。
 節目に当たってもう一つのお願いですが、自己分析を行ってください。4年間、編入学の皆さんは2年間ですが、成長しましたか。知識のことと、自立する力に分けて分析してください。知識は高校レベルとどれだけ違うかで判定できるでしょう。自立する力は、判定が難しいものです。私は皆さんが入学したときに、映画を見るか本を読むかして、感想を書いておくことをお願いしました。もう一度同じ映画あるいは本の感想を書き、比較してください。皆さんの大学生活での成長を感じることができるでしょう。
  社会の変化ですが、目の前にある新型コロナウイルスについて考えてみてください。考えの視点は幾つかありますが、モビリティの発達によって、私達の生活や職業の在り方が大きく便利に変わってきました。普段はそのことを気にせずに空気のように感じているのですが、今回はモビリティが著しく不便になりました。常識が変わる変化は影響力が大きく、不安感も大きいものであることを実感したと思います。この実感を大切にしてください。
  もう一つの変化が男女のダイバーシティだと思います。今から34年前に男女雇用機会均等法が施行され、総合職として採用された女性が、入社後30年を過ぎて、大企業の高い地位に就くようになりました。本学の卒業生は様々な業種で活躍しています。大手鉄鋼会社、大手自動車会社、大手百貨店、大手出版社、官僚機構など社会的に影響力の大きい分野に輝く卒業生がいます。これが初期のダイバーシティです。現在のダイバーシティは、女性を男性の職業に就かせる段階から、男女が混在して多様性が増すことが組織を強くする重要な手法であるとの認識へ移行しています。常識を覆す変化が突然やってくること、ゆっくりではあるけれど、着実な変化が進行していることをお話ししました。
  話は変わりますが、せっかく奈良とご縁があったのですから、是非学生時代の良き思い出を、生涯の宝物としてお持ちください。奈良の特徴は長い伝統です。修二会は1269回、一度も中断することなく継続しています。奈良での経験から、皆さんは10年、100年、1000年というマルチスパンで物事を考える力を得たと思います。皆さんは「多様なスパンで考えることができる」ことで幸せを紡ぐことのできるリーダーの卵です。
 私たち教職員は、皆さんの成長が喜びです。尊敬と信頼を得る社会人となれるよう自己を鍛錬してきた成果を、全国に持ち帰って思う存分発揮してください。
  最後になりますが、皆さんの輝かしい未来を祈念してお祝いの言葉といたします。  

 令和2年3月24日 奈良女子大学長 今岡春樹