令和3年新年互礼会を開催しました(1月4日オンライン開催)

 教職員の皆様、あけましておめでとうございます。
 昨年は新型コロナウイルスの蔓延により、授業や会議そして就労をリモートで行うという形態に変更せざるを得なくなり、急遽対応をお願いしました。幸い何とか凌いだという状況です。ご協力ありがとうございました。コロナが落ち着くまでにまだ1年はかかると覚悟しています。1月から3月までは大学入学共通テストと個別入試を無事行うことが大切になります。よろしくお願いします。
 令和4年度から6年間が、第4期中期目標・中期計画期間になります。経済の停滞についてですが、ワクチンが成功したと仮定しての話ですが、コロナ以前に景気が回復するには、アメリカは今年いっぱい、ヨーロッパと日本は2年かかると予測されています。各国とも大規模な財政出動を行いましたので、この影響は10年単位で続くものと考えられます。これらのことは国立大学の第4期に大きく影響します。国立大学は自らの社会的価値をアピールし、実績を積み、なくてはならない存在になることが要求されています。胸突き八丁です。
 本学は奈良教育大学との法人統合を核として、奈良カレッジズを構想しています。奈良カレッジズは日本の従来型の総合大学とは異なるタイプの学問の総合化を目指したものです。学生の視点からすると、学べる範囲が広いことが決定的に重要です。広い範囲の中から自分の可能性を最大化する分野を自らの考えで選択し、その道を究める。その形の学問を可能にするのが奈良カレッジズです。その目的は教育の改革つまり人材育成の改革です。「世界で戦える学生を育成すること」を法人統合の基本にしています。奈良教育大学との法人統合の取組にはそのエッセンスが入っていますので、その構想を述べます。

1) 教養教育の充実:世界で戦うための教養とは何でしょうか?まずは語学能力の鍛錬が必要です。次に深いレベルでの俯瞰能力の育成です。自分が学ぼうとしている専門と友人が学んでいる専門がどこに位置しているのか、どんな関連があるのかを知ることです。奈良教育大学との法人統合では、現在ある可能なすべての科目を相互に開放することが必要です。さらに奈良国立博物館や奈良文化財研究所のご協力で奈良の文化を知ることは必須です。日本の文化を語れるのは世界で戦うために必須アイテムです。

2) 教員養成と教員研修の実施:教員養成のシステムは教育大の得意分野ですので、そのシステムを最大限活用します。教員研修を考えるうえで附属学校の機能分化を明確にし、将来構想を示す必要があります。大学教育は幼稚園から続く教育の延長にありますから、人材育成は附属学校と共に考えるテーマです。本学の附属は実験的で未来志向型です。一方教育大の附属は実践的で現実志向型です。両大学の附属が機能分化しつつ、コミュニケーションを取りながら、世界で戦える人材育成のための初等・中等教育を探求することになります。

3) 奈良女子大学工学部の設置:日本にはおよそ800の大学があります。その一割が国立大学であり、別の一割が女子大学です。理学部を有する女子大学は3大学のみで、工学部を有する女子大学は皆無です。国立大学工学部の女子学生比率は一割です。アメリカを筆頭に女性工学士の割合を増やすことが重要であるとの認識が高まり、実際に高まっている中で、規模は小さくても女子に限定した工学部を設置することには大きな意義があります。ただし、アメリカにおいては工学を専攻した女子学生はそのキャリアを生かさずにリタイアする比率が男性より高いという報告があります。男女共同参画社会実現へのテーマとして扱いたいと思います。

4) 異能交流ラボの設置:モノやコトのイノベーションを起こすには異分野交流が必須です。分野を問わず年齢を問わず集まり、問題を作りその解答のモデル作成を行います。スタートアップ支援のためのラボです。参考にしたマサチューセッツ工科大学メディアラボでは、二つのキャッチフレーズがあります。一つ目が「異なる複数の視点を手に入れて、新しいアイデアを育もう!」で、これが異能交流ラボに当たります。二つ目が「研究所の外に出て、さまざまな人や地域に目を向けよう!」で、これは奈良の過疎地に置くラボのサテライトになります。

5) 多核連携型社会の実現:東京一極集中の目的は経済の効率化であり、意思決定の迅速化です。弊害は災害時のダメージの大きさで、回復力の弱さになります。リモートワークが可能となったポスト・コロナの時代において、多核連携型社会の実現が強靭化(レジリエンス)というキャッチフレーズで語られています。東京に次ぐ経済圏は大阪で、関西文化学術研究都市は筑波研究学園都市の関西バージョンです。関西文化学術研究都市の持つ先端性を人材育成に活用し、学生が集う学園都市化を試みて活性化することが奈良カレッジズのもう一つの側面です。最先端の研究はあるがスタートアップを担う学生が不足しているので、ここをネクストシリコンバレーにするために大学がすべきことは多いと思います。

6) 経営基盤の強化:法人統合の狙いの一つは経営と教学の分離です。理事長と学長の役割分担を行います。工学部の設置により受託研究の比率を上げたいと思っています。国内外からの大学魅力アップによって、寄付金増加やクラウドファンディングによるプロジェクトの実施を行います。徹底したDXを行うことで業務と研究と教育の効率化を行い、余剰金を大学魅力アップに使う予定です。

 以上述べたことを、実際に行うためにどうすればよいかを日々考えています。ミニ東大を目指す時代は過ぎ、2番で良い時代も過ぎ、それぞれの大学が比類なき存在になることが求められています。昨年12月25日に出された国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議の最終報告「国立大学法人の戦略的な経営実現に向けて〜社会変革を駆動する真の経営体へ〜」をぜひ読んでください。正面から読んでください。
 最後になりますが、教職員の皆様の健康を祈念して年頭のあいさつとします。  

令和3年1月4日
 奈良女子大学長 今岡春樹