令和2年度奈良女子大学卒業式 学長式辞
文学部 171名、理学部164名、生活環境学部187名、合計522名の学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今年も昨年に続いて新型コロナウイルスの影響で、卒業式を学部別の簡素な形で行うことにしました。
私たち奈良女子大学の教職員一同は、各地で本日のご卒業をお喜びの保護者の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
ご卒業は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって二つのお願いがあります。
まず、ご家族あるいは皆さんを支えてくれた方に「ありがとうございました、おかげで無事卒業することができました。」と感謝の言葉を伝えてください。この言葉は、経済的支援だけでなく、皆さんが無事でいて欲しいとの祈りの気持ちに対しての返礼になります。是非口に出して伝えてください。10年前の東日本大震災を思い起こすまでもなく、今日の新型コロナウイルス禍を見れば、無事であること、「つつがなし」は実は大変な事なのです。
節目に当たってもう一つのお願いですが、自己分析を行ってください。4年間、編入学の皆さんは2年間ですが、成長しましたか。知識のことと、自立する力に分けて分析してください。知識は高校レベルとどれだけ違うかで判定できるでしょう。自立する力は、判定が難しいものです。私は皆さんが入学したときに、映画を見るか本を読むかして、感想を書いておくことをお願いしました。もう一度同じ映画あるいは本の感想を書き、比較してください。皆さんの大学生活での成長を感じることができるでしょう。
大学として新型コロナウイルスへの対応を1年以上行っています。現実は現実ですが、少し俯瞰して考えたことをお伝えしてお祝いの言葉にしたいと思います。
キーワードの一つは「移動」です。人間は動物ですから移動します。自然な移動は足で行いますので、あまり遠くまでいけません。近代文明は、電車、車、飛行機を発明し、多くの人が交通機関を利用するようになりました。モノづくり企業は、工場を持ちそこに働く人が集まる労働形態を作りました。教育では、学校を作りそこに学生が集まる学習形態を作りました。
人が集まる場所を都市といいますが、都市では様々な場所やイベントで密集が起こります。二つ目のキーワードは「都市」です。「移動」と「都市」というこの社会の基本部分が弱点を示したのです。基本が揺らぐのですから、私は世界が大きく変わると予想します。皆さんは4回生の時に新型コロナを経験されました。将来、ああ、あそこで世界が変わったんだという感想を持たれると思います。卒業という節目に、新型コロナをトピックに私たちの社会の作りについて考えてみてください。是非自分が学んだ分野の思考方法で考えてみてください。
話は変わりますが、せっかく奈良とご縁があったのですから、是非学生時代の良き思い出を、生涯の宝物としてお持ちください。奈良の特徴は長い伝統です。修二会は1270回、一度も中断することなく継続しています。新型コロナの影響下でもびくともしませんでした。奈良での経験から、皆さんは10年、100年、1000年というマルチスパンで物事を考える力を得たと思います。皆さんは「多様なスパンで考えることができる」ことで幸せを紡ぐことのできるリーダーの卵です。
最後になりますが、皆さんの輝かしい未来を祈念してお祝いの言葉といたします。
令和3年3月24日 奈良女子大学長 今岡春樹