令和3年度奈良女子大学卒業式 学長式辞
今年も新型コロナウイルスの影響で、卒業式を学部別の簡素な形で行うことにしました。私たち奈良女子大学の教職員一同は、各地で本日のご卒業をお喜びの保護者の 方々に、心よりお祝いを申し上げます。
ご卒業は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって二つのお願いがあります。まず、ご家族あるいは皆さんを支えてくれた方に「ありがとうご
ざいました、おかげで無事卒業することができました。」と感謝の言葉を伝えてください。この言葉は、経済的支援だけでなく、皆さんが無事でいて欲しいとの祈りの気
持ちに対しての返礼になります。是非口に出して伝えてください。11年前の東日本大震災を思い起こすまでもなく、今日の新型コロナウイルス禍を見れば、無事であるこ
と、「つつがなし」は実は大変な事なのです。節目に当たってもう一つのお願いですが、自己分析を行ってください。4年間、編入学の皆さんは2年間ですが、成長しまし
たか。知識のことと、自立する力に分けて分析してください。知識は高校レベルと今と比較してどれだけ違うかで判定できるでしょう。自立する力は、判定が難しいもの
です。私は皆さんが入学したときに、映画を見るか本を読むかして、感想を書いておくことをお願いしました。もう一度同じ映画あるいは本の感想を書き、比較してくだ
さい。皆さんの大学生活での成長を感じることができるでしょう。大学として新型コロナウイルスへの対応を2年以上行っています。現実は現実ですが、少し俯瞰して考え
たことをお伝えしてお祝いの言葉にしたいと思います。キーワードの一つは「移動」です。人間は動物ですから移動します。自然な移動は足で行いますので、あまり遠く
までいけません。近代文明は、電車、車、飛行機を発明し、多くの人が交通機関を利用するようになりました。この移動をベースに、モノづくり企業は工場を持ち、そこ
に働く人が集まる労働形態を作りました。教育では、学校を作りそこに学生が集まる学習形態を作りました。二つ目のキーワードは「都市」です。人が集まる場所を都市
といいますが、都市では様々な場所やイベントで密集が起こります。「移動」と「都市」というこの社会の基本部分が弱点を示したのです。基本が揺らぐのですから、私
は世界が大きく変わると予想します。皆さんは3回生の時に新型コロナを経験されました。将来、ああ、あそこで世界が変わったんだという感想を持たれると思います。
卒業という節目に、新型コロナをトピックに私たちの社会の作りについて考えてみてください。世界が変わったという具体的な兆候が出ています。ロシアによるウクライ
ナへの軍事侵攻です。ウクライナの首都キーウ(キエフ)市は奈良や京都と同様の古い歴史があり、京都市とは姉妹都市です。その都市で銃弾が飛び交っています。
話は変わりますが、せっかく奈良とご縁があったのですから、是非学生時代の良き思い出を、生涯の宝物としてお持ちください。奈良の特徴は長い伝統です。修二会は
1271回、一度も中断することなく継続しています。新型コロナの影響下でもびくともしませんでした。奈良での経験から、皆さんは10年、100年、1000年というマルチス
パンで物事を考える力を得たと思います。少し厳しい話を考えるとき、この話は100年ものかな?10年ものかな?と考えると、少し俯瞰的に考えることが出来ます。
最後になりますが、皆さんの輝かしい未来を祈念してお祝いの言葉といたします。
令和4年3月24日 奈良女子大学長 今岡春樹