令和5年9月卒業式並びに学位記授与式を挙行しました(9月29日(金))









 

 学部卒業生6名、大学院博士前期課程修了生8名、大学院博士後期課程修了生5名、合計19名の皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。各地で本日のご卒業・ご修了をお喜びのご家族・ご親族の皆様にお祝いを申し上げます。
 ご卒業・ご修了は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって一つお願いがあります。保護者の方、あるいは皆さんを支援して頂いた方に感謝の言葉を伝えてください。「ありがとうございました、おかげで卒業・修了することができました。」この言葉は、頂いた経済的支援についてだけでなく、無事でいて欲しいとの祈りに対しての返礼になります。昨今の自然災害や新型コロナウイルスを見ますと、無事であることのありがたさを感じます。きちんと、口に出して伝えてください。
 卒業や修了されて、さらに進学される方や社会に出られる方がいると思います。今の時代は大学でも社会でも「イノベーション」が重要視されています。皆さんご自身がその中央に立つ場合もあり、またマネージメントする場合もあると思います。ここで、イノベーション人材としての3要件をお伝えします。(1)広く深い根底からの知識を持つ。これは、人類が到達している知のフロンティアがどこにありその突破を妨げているバリアが何かを、広い範囲で知っていることです。(2)問題設定能力が高い。これは、単に問題を作る以上の能力です。解いたときに大きな意味を持つような問題として問題を設定できることです。代表例はJack Kilbyの集積回路の発明です。はんだ付け不良問題を、はんだ付けそのものをしない問題として設定しました。(3)異なる分野の人とコミュニケーションができる。これは、自分が考えていることの本質を他の専門の人に分からせ、またこの逆に聴いて分かる能力です。一度自己分析をしてみてください。知識・設問・対話の三つです。
 知のフロンティアとしてデジタル分野があります。日本はデジタル化が遅れているとの反省から、幾つかの動きがありますので紹介します。高校での動きは2022年度から情報科目が必修化され、2025年度の大学入試に出題されます。大学と大学院では3000億円ファンドを活用して、今後10年間、学部と大学院の定員増を可能にしました。高度情報専門人材育成事業といいますが、今年度本学を含めて国立大学では37大学が採択されました。
 統計によりますと世界でIoTデバイスの数が400億台と言われています。世界人口は80億人としますと、一人当たり5台となります。この今までに経験したことのない時代では、デジタルの基礎はあらゆる分野において必須の知識になります。そしてデジタル分野で知のフロンティアがどこにあるかを考えてみてください。私が思いつくキーワードの例は「大規模言語モデル」、「量子コンピューター」、「メタバース」です。
 さて、ありがとうございましたという挨拶に加えてもう一つお願いがあります。同窓会である「佐保会」と生涯付き合ってください。多くの先輩リーダーを見ることで、その生き方に影響されます。そして時がたつと、皆さんが後輩に影響を与えるようになります。その縦の繋がりを大切にすることが貴女たちの人生を豊かにすることを保証します。私は大学の将来像として、大学は青春時代のトレーニングセンターから一生涯のコミュニティセンターに移行していくと予想しています。本学ほど同窓会が充実している大学を他に知りません。是非大切にしてください。
 最後になりますが、私たち教職員は皆さんの成長と活躍が大きな喜びです。この奈良の地で学んだことを、全国に、あるいは母国に持ち帰って伝えてください。皆さんの前にある社会人生活あるいはさらなる学生生活が実り多いことを祈念してお祝いの言葉とします。

令和5年9月29日 奈良女子大学長 今岡春樹