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令和6年度奈良女子大学卒業式 学長式辞

高田学長式辞


 この度、奈良女子大学から卒業される皆さん、ご卒業、おめでとうございます。ご家族並びに関係者の皆様に、心よりお祝い申し上げます。皆さんの門出に当たり、私から一言、お祝いの言葉をお送りしたいと思います。

 私は今、65歳です。日本人男性の平均寿命からすると、私に残された時間は、今まで生きてきた歳月よりもずっと短いことでしょう。私事ですが、私と1歳違いの兄は中国駐在中に47歳で急死しました。私の年齢くらいになると、否が応でも「人間いつ死ぬかわからない」という言葉を、身につまされて感じるようになってきます。自分の過去を振り返りますと、残雪の残る上越の山での調査中、登山道から滑落して谷底に落ちたり、南極大陸沿岸部の凍結した湖で、薄くなった氷が割れて湖に落ちそうになったり、標高5000m付近のチベット高原の調査中にチベット犬に噛まれたりと、結構、危ない橋を渡ってきたなあ、と思います。10年以上前にはなりますが、救急車で運ばれ、心筋梗塞の緊急手術を受けたこともありました。運よく、生き延びてきた、という感じでしょうか。また北アルプスの山奥で調査中に、通りがかりの登山者が疲労凍死する現場に遭遇したこともあります。

 御存知のとおり、2011年3月11日の東日本大震災では多くの尊い命が奪われました。また2024年1月1日の能登半島北部で発生した地震や、同じ地域で発生した9月の豪雨災害では、これも多くの尊い命が奪われました。今でもこれらの地域の方々の生活再建には多くの困難が立ちはだかっています。広く海外にまで目を向けると、ウクライナとロシアの戦争や、イスラエルのガザ地区への攻撃などでは、乳幼児をはじめ、若くして命を落とす人々のニュースを耳にしない日は無いほどです。

 前途洋々のみなさんは、このような「人の死」という暗い話を、何故ここで、と思われるかも知れません。このような話をしてきたのは、みなさんに、これからの自分の人生について深く考えていただきたいからです。みなさんは、おそらく私よりもずっと長くこの世界を生きてゆくことになるでしょう。しかし未来のことで確実なことは誰にもわかりません。この私とて、明日、死ぬかもしれません。縁起でもないかも知れませんが、みなさんだってその可能性がゼロではありません。私のような歳になると、限られた人生の時間をどのように過ごすべきなのか、という課題が切実になってきますが、誰しもが、そのような切実感をもって人生の進路を考えるに越したことはないでしょう。

 正直なところ、私自身、これからの自分の歩む道を考えた時に、悩みは尽きません。人には自分の歩む道があり、それは人それぞれです。一つとして同じ道はないはずです。それを念頭に敢えてみなさんに「自分の進む道は、自分で決めなさい」、という言葉を贈りたいと思います。これは決して他人のアドバイスを聞き入れるな、とか、他人の言葉を参考にするな、ということではありません。耳を傾けることは大いにすべきことですが、最終的な決断は自分でしなさい、ということです。最終的な決断を自分ですれば、その結果がどのようなものになっても、他人の責任にはできません。また、その結果を踏まえて、自分で更にその先の道を切り拓いていかなければならない、という自覚も生まれるはずです。生あることに感謝しつつ、大いに調べ、耳を傾け、悩み、考え、そして自分で決断してください。自分の決断で踏み出す新しい1歩こそが、あなたの未来を切り拓き、あなたの一生に重要な影響を及ぼす1歩となることでしょう。

 文部科学省から2024年度に公表された2023年度の大学進学率は、男性が60.5%、女性が54.5%と、現在の日本では、半数以上の人が大学で学んでから社会に出て行く世の中となっています。一方、同じ2023年度のデータでは、大学院への進学率は男性が16.04%、女性が7.35%です。このデータから、現在の日本では、大学の学部での学びに関する男女差はさほど大きくないが、大学院の状況に関しては、大きな男女差が存在することがわかります。ただし、分野別に見て行くと、いわゆる理工系の分野においては学部で学ぶ女子学生が極端に少ない割合しか存在しないことなども指摘されています。これらのことから、学部を卒業してからの皆さんの活躍こそが、社会に必要とされているのだ、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

 皆さんは、授業料を払って大学が提供する各種の教育・学術研究のサービスを受けてこられました。その一方で、税金の補助を受けて、その授業料を上回る勉学研究環境を優先的に利用されても来られました。この点から考えると、皆さんは、自分のために勉学・研究するだけではなく、その勉学・研究の成果を少しでも社会に還元する責務をも負っているのだということになります。ここにいらっしゃる卒業生の皆さんが、奈良女子大学での学びを糧に、さらに大きく成長し、これからの社会を支える大きな力、願わくは社会を牽引する女性リーダーとなっていただけることを期待して、お祝いの言葉とさせていただきます。これからの皆さんの健闘を、心よりお祈り申し上げます。

2025年3月24日
奈良女子大学長 高田将志