平成29年度奈良女子大学卒業式並びに学位記授与式 学長式辞

    

 文学部154名、理学部160名、生活環境学部191名、合計505名の学部卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんは本学で学部を超えた大きな改組が行われたその一期生になります。
 前学長はじめ名誉教授の先生方、佐保会理事長、奈良佐保短期大学長、放送大学奈良学習センター所長、育友会会長にはご臨席を賜りまことにありがとうございます。奈良女子大学の教職員一同は、ご来賓の方々と共に、皆さん、本日ご同伴されましたご家族の方々、また各地で本日のご卒業をお喜びのご親族の方々に、心よりお祝いを申し上げます。
 ご卒業は、皆様の人生において幾つかある節目の一つです。節目に当たって二つお願いがあります。
 まず、ご両親あるいは皆さんを支えてくれた方に「ありがとうございました、おかげで無事卒業することができました。」と感謝の言葉を伝えてください。この言葉は、経済的支援だけでなく、皆さんが無事でいて欲しいとの祈りの気持ちに対しての返礼になります。是非口に出して伝えてください。23年前の1月17日に阪神・淡路大震災が発生しました。ちょうど皆さんが生まれたころの大災害でした。無事であること、「つつがなし」は実は大変な事なのです。
 節目に当たってもう一つのお願いですが、自己分析を行ってください。4年間、編入学の皆さんは2年間ですが、成長しましたか。知識のことと、自立する力に分けて分析してください。知識は高校レベルとどれだけ違うかで判定できるでしょう。自立する力は、判定が難しいものです。私は皆さんが入学したときに、映画を見て感想を書いておくことをお願いしました。もう一度同じ映画を見て感想を書き、比較してください。皆さんの大学生活での成長を感じることができるでしょう。
 さて、ご卒業後はさらに大学院へ進学する皆さんと社会人になる皆さんがいるでしょう。社会人と学生との間には大きなギャップがあります。学生はお金を払う「お客さま」ですが、社会人はその活動でお金をいただく立場になります。
 社会の変化ですが、この一年間日本で大変話題になったのが中学生棋士の藤井聡太六段です。人工知能のコンピュータソフトがプロ棋士より強くなり、囲碁将棋という伝統ゲームの危機が訪れました。一方で藤井六段というスーパースターが現れました。彼がこれほど短期間で強くなったのは、努力もありますが、勉強する環境に、コンピュータソフトがあったことが最大の要因でしょう。ここに人工知能の功罪を見ることが出来ます。世の中は力を持った人工知能の出現を、大きな変化と捉えています。車に匹敵するくらい大きなインパクトを社会に与えそうです。人工知能を作る段階で、「学習」というステップがあります。教育研究機関である大学で「学習」は欠かせませんので、車以上の衝撃を与えると思っています。
 もう一つの話題が女性の社会進出です。今年になってうれしいニュースが入ってきました。日本の有名な自動車会社で、生え抜きとしては初めての女性役員が誕生したというニュースです。本学の家政学部被服学科を約30年前に卒業した方で、ユーザーの立場で車を作ることに成功されました。現在の言葉では「感性工学」という分野です。この学会ができたのが20年前ですので、先見の明があったと言えます。皆さんの先輩が、有名な高級自動車の開発総責任者として活躍しています。
 話は変わりますが、せっかく奈良とご縁があったのですから、是非学生時代の良き思い出を、生涯の宝物としてお持ちください。奈良の特徴は長い伝統です。修二会は1267回、一度も中断することなく継続しています。奈良での経験から、皆さんは10年、100年、1000年というマルチスパンで物事を考える力を得たと思います。皆さんは「多様なスパンで考えることができる」ことで幸せを紡ぐことのできるリーダーの卵です。
 私たち教職員は、皆さんの成長が喜びです。尊敬と信頼に耐える社会人となれるよう自己を鍛錬してきた実力を、全国に持ち帰って思う存分発揮してください。
  最後になりますが、皆さまの輝かしい未来を祈念してお祝いの言葉といたします。

 平成30年3月23日 奈良女子大学長 今岡春樹